JUGEMテーマ:音楽
「8cmのピンヒール」というチャットモンチーの曲は、2009年に発売された「告白」というアルバムの一曲目を飾っている。
ガールズバンドの固定観念を覆した彼女たちが、まさに波に乗っていた時期で、同アルバムに収録されている「風吹けば恋」とかはまさにチャットモンチーって感じだった。
彼女たちのすごさは、それまで実力はあまり伴わなかったり、男をドラムに入れたりして成り立っていた、ガールズバンドサウンドってのを、自分たちだけで完結し昇華させちゃったところ。だから男性からしても「可愛い」とかの見た目じゃなくて「カッコいい」とか「すごい」って素直に思えるバンドだった。
私が好きなチャットモンチーってのは、いわゆる女子しか出来ない、わからないような生々しい気持ちを歌うところ。
たとえば「恋愛スピリッツ」なんて曲の「あの人がそばにいない あなたのそばに今いない だからあなたはわたしを手放せない」
こんな歌詞は男じゃ書けないですし、考えられないです。見方によっちゃホラーに走れそうだけど、女性はきっとこういう気持ちを否定できないんだろうなと。そういうのを彼女たち表現するのがすごい上手だった。
そういう側面を表層には出さずして表現していたのが、「8cmのピンヒール」という曲になる。ようやく本題です(長々とごめんね)。
この曲は明るいメロディに浮き足立つような恋を感じさせる歌詞からスタートするんだけど、、、。
※私はあまり明るくないんだけど「8cmのピンヒール」というのが、ちょっと背伸びをしている長さなんだと。ピンヒールってのはやっぱり高ければ高いほど足に負担がかかるものだそうで、8cmってのはちょっとがんばりました感があるのだと。
「消せないメールの行方 冷めにくい熱だった 太陽が迎えに来ても 覚めにくい夜だった」
恋というフレーズを使わずして、こう表現できる素晴らしさ。のっけから惹きこまれた。
「化石になった脳みそが 私の体を支配して 寝返りを打つたびに 右左にコロコロ」
化石=思考停止した 私の体を支配するもの=恋 寝返りを~=嬉しい悩み、高揚感
「8cmのピンヒールで駆ける恋」
少し無理してでもあなたに合わせていた。メロディは「恋」を強調し、さらに橋本絵莉子(ボーカル)は「恋」を伸ばして歌っている。
この意味は? 感情は?
「月を見てきれいだねと言ったけど あなたしか見えてなかった あの光はね 私たちの闇を照らすため 真っ黒の画用紙に空けた穴」
このサビに来て初めて不穏なワード「闇」が飛び出してくる。なぜなのか。それは一番を聴いた時にはまだ理解できなかった。
二番からは少し無理してあなたに合わせていた綻びが、じわりじわりとあふれ出る。
「袋とじになった最終章 中身はわかっていたけど 山のように積もった あなたに埋もれたまま」
終わりは知っていたけど、それでもあなたを感じるのが幸せだった。(化石の脳みそ)
「歩幅を合わせて歩いた 転ぶとわかっていたけど 痛みも忘れてしまうの あなたは優しいから」
ここで流暢に進んでいたメロディも一度ぴたっと止まる。ギクシャクしている感覚。どうしてうまくいかないのか。
歩幅を合わせることで転ぶのはどうしてか、それは…。
「8cmのピンヒールで駆ける恋」
先ほどと同じ言葉だが、意味合いは少し違う気がする。ボーカルの声は力が抜けていくような。それは熱が冷めていくような。
そして混ぜこぜになったような間奏に入る。
悩みの正体が少しづつ思い当たった瞬間だった。
「ねぇ 私のこと全部わかるって言ったけど あなた何も見えてなかった」
これは、あなたは私のことを理解しようとしてくれなかった、って意味でもあるんだけど…。
「この涙はね あなたの全てを盗むため 真っ白いハンカチにつけた染み」
あなたの気を引く為、染みがわかりやすい白いハンカチで涙をぬぐった。
つまり、最後まで私の涙の意味に気づかなかったんだね、って意味も兼ねてる。
たぶん嘘泣き、というか気を引くためのわざと泣きって感じ。
映像として、泣きながら、でもどこかで笑ってる姿も想像出来てしまう。
「月を見てきれいだねと言ったけど あなたしか見えてなかった あの光はね 私たちの闇を照らすため 真っ黒の画用紙に空けた穴」
…月の光で照らされて初めて知った事実、それは見えていなかった「闇」の正体。先ほどでは理解したくなかった感情もあるんだろう。だけどもうわかってしまった。「真っ黒の画用紙に私たちは居たんだ」という事実を初めて知る。
月の光が示しているものはなんだろう。
太陽の光といえば「はっきりとした輝き」が瞬間で即座に照らされるような、言ってしまえば希望。
でも月の光はそうじゃない。じわりじわりと部分部分を明らかにするような「段階を踏んだ光」って感じかな。
私はあなたでいっぱいだったのに、あなたはそうではなかった。どこかそう思えるような、別れの理由がきっとあったんだろう。
それは先ほどの歩幅を合わせることで転んだ=あなたが私に合わせてくれなかった、というところかもしれない。
もしくは、知っていたけどわかってなかった部分かもしれない。だけど私はもうこの時点でこの恋を過去にすることを決意している。「闇」に対して先ほどよりも向き合うことを、決意している。
そして「穴」へと彼女は駆けていく。
「8cmのピンヒールで駆ける恋 8cmのピンヒールで駆ける恋」
どうやって二人が別れたのかなんて語られないけど、間髪いれずに繰り出されたことでわかること。
悲しみとか苦しみとか、そういう向き合わなければいけないもの(闇)を、包括した過去が過ぎ去っていくことを示している。
惜しみながら。「8cmのピンヒール」で痛みを伴いつつも駆け抜けながら。橋本絵莉子は感情込めて歌いあげる。
そうやって考えると一番最初の「8cmのピンヒールで駆ける恋」が強調された理由がわかる。
それまでは理想だったのに、あそこで現実になったんだろう。何が? もちろん闇が。でも気付かなかったと思う。
しかし後半になるにつれ彼女はどうしても理解せざるを得なかったみたいだ。
恋の始まりは何でも楽しくて仕方ないのに、終わりは辛く苦しく痛いものになっていく。
そういう事をこういう形で表現しちゃうこの歌は、本当に深くて聴き飽きない。
「8cmのピンヒールで駆ける恋」は
最初は期待が上乗せされていく 「8cmのピンヒールで×(かける)恋」 と背伸びをしたアイテムだったのが
段々と闇がわかって 「8cmのピンヒール(のせい)で欠ける恋」という 別れの原因のシンボル的な
同じ歌詞で、違う意味合いになっていたのかもしれない。
そこはまぁ 聴き手次第で。
因みに次は「ヒラヒラヒラク秘密ノ扉」は、色々な感情が溢れ出しまくるっていう曲になっている。
うーん、素晴らしいバトンパス。もはや多くを語る必要なし。